複数回にわたり、ドイツの森林戦略2020を紹介してきましたが、今回は各項目に関するドイツの森林・林業の背景を簡単に補足していきたいと思います。
ドイツにおける森林戦略2020(気候変動)
実際にドイツ(ヨーロッパ)では、1990年に“Wiebke“、1999年に“Lothar“、2007年に“Kyrill“、2018年に”Friederike”などの強力な暴風雨により、森林に多大な被害を受けています。被害を受けた地域の樹種の多くは針葉樹で、その中でもとりわけ浅根性のトウヒの被害が大きくなりました。広範囲にわたって木が根ごとなぎ倒されたのです。被害の遭った場所の再造林では、針葉樹の一斉林を止め、近自然的な考えに基づいた広葉樹との混交林を目指しています。
また、気候変動はこのような極端な暴風雨のほかに、気温や降水量にも関係してきます。近自然林業においても、潜在自然植生という考え方だけでなく、将来起こりうる気候変動へ対応した樹種の選択が必要になってきます。
ドイツにおける森林戦略2020(財産・仕事・収入)
ドイツにおける林業・木材産業クラスターは一大産業です。従事者の数は100万人を越え、その数で比較すると、機械・設備産業、自動車産業よりも多くなっています。そしてその雇用の重要性は、都市部よりも地方の農村部へ行くほど高くなっていきます。地域によってはおよそ25%もの雇用が森林・木材に関係しているところもあるようです。
またドイツでの森林の所有形態のうち、半分近くの48%が私有林となっています。
その私有林の面積を見てみますと、20ha以下の小規模面積が半数を占めています。小規模な私有林では木材の販売が難しいだけでなく、所有者の林業に対する意識がそれほど高くないことが多くあります。そのため、小規模私有林における実際に成長量に対しての利用量が少なく、蓄積量が多くなる傾向があります。
それらの森林における木材生産のポテンシャルを十分に活用するために、情報の把握、伐採・搬出の手段、マーケティングなどを助言や補助事業などを使い、促進する必要があります。その際、協同組合の存在はとても重要になります。
ドイツにおける森林戦略2020(原材料・利用・効率)
木質バイオマスのエネルギー利用の需要は2000代以降伸びており、近年では木材の素材としての利用量と、エネルギーとしての利用量がほぼ同量になっています。
エネルギー利用のための木質バイオマス生産の可能性としては、森林の外における品種改良されたポプラやヤナギによる超短伐期栽培があります。5年~10年などの短期での収穫が可能で、伐採後も、萌芽更新により引き続き収穫が期待できます。しかし、作付面積は現在までそれほど多くはないようです。
ドイツにおける森林戦略2020(生物多様性と森林保全)
日本と同様、厳密な意味においてドイツには原生林は存在しません。しかし、将来の原生林をつくるために、保護をして人間の手を加えず、自然を自然のままにしている森は存在しています。生物多様性国家戦略において、2020年までにドイツの森林面積の5%を、自然の発展にまかせるままの保護林とする計画があります。逆に言うと、95%のドイツの森林は、経済的利用がされる森林ということになります。
ドイツにおける森林戦略2020(造林)
冒頭でドイツの森林を誇っていますが、これを考えると日本の森林がいかに恵まれているかわかります。
この森林戦略の後に発表された、2012年の連邦森林在庫調査によるとドイツの森林蓄積量はさらに増え、針葉樹の割合は下がり、広葉樹の割合が増加しています。また単層林も減少し、より構造が複雑化、多様化しています。総合的に見て森林の近自然化が進んでいると言え、この項目の目標は達成しつつあると言えます。
ドイツにおける森林戦略2020(狩猟)
ドイツでは狩猟は昔から高貴な趣味であり、現在においてもある種のステータスを伴っています。ハンターとしては、狩猟のためにある一定の個体数は維持したい、フォレスターとしては、天然更新の食害を防ぎたい、自然保護団体は動物保護の観点から狩猟鳥獣種の縮小や禁猟期間の拡大をしたい、そして市民の中には狩猟を残酷だと思っている人も少なくないなど、様々な意見が存在し、狩猟は常に論争の的になっています。
ドイツにおける森林戦略2020(土壌と水の保護)
1980年代にドイツでは酸性雨により森林の立ち枯れが発生し、「森の死」と言われ深刻な社会問題になりました。排ガスの対策などで最悪の事態は免れたものの、現在でも引き続き土壌の酸性化は起こっています。そしてその対処方法としては、森林への石灰の散布を行っています。
また、たくさんの林業機械が使われているドイツ林業ですが、現在でも馬搬による木材の搬出が行われているところがあります。
ドイツにおける森林戦略2020(保養・健康・ツーリズム)
ドイツの森林への立ち入りは万人に許可されていて、それは私有林についても同様です。しかも森林内には、林業のための路網が縦横無人に走っているので、市民はそれを利用して森に入って行きます。
元々、林業機械が通れるような設計の道なので、路面はしっかりとしていて、角度はゆるやかで、路幅も充分にあります。それは、市民がおしゃべりをしながら散歩をしたり、ジョギングやサイクリングにもぴったりの道です。このように、立ち入りの権利があることと、物理的な道の整備によって、ドイツ人の森好きは成り立っていると言えます。
ドイツにおける森林戦略2020(教育・広報・研究)
その後、長年行ってきた州による私有林への助言や木材の販売に関して、一部で連邦カルテル庁によりカルテル判決を受けてしまいました。この件に関しては、いつか別記事で紹介するかもしれません。
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