ドイツにおける森林戦略2020(生物多様性と森林保全)

アカゲラ

 

2011年に策定されたドイツの森林戦略2020。今回は生物多様性と森林保全に関する項目を見てみます。

生物多様性と森林保全

現況

もし人間の影響がなければ、ドイツの国土のほとんどは森で覆われているはずであった。特に中世から19世紀までの間の国土の開墾と開発の結果、森林は減少、荒廃し、生物の構成に大規模な変化が起こった。

300年前にドイツで持続可能な林業が営み始められて以来、何世代にも渡るフォレスター(森林官)の奮闘、そして森林所有者の貢献の結果、再び森林が増加し、今日における多様な森林のエコシステムができあがってきた。このようにして、ドイツの生物多様性の舞台の一部が保たれてきた。

持続可能な林業は、他の土地利用と比較して非常に自然的なものである。連邦森林法と連邦自然保護法及びそれに相当する州法は、林業において高い自然保護標準を定めている。

森林の利用は、今日では自然の保護と維持において、様々な高い要求を課されている。ドイツでは基本的に生物多様性の保護と維持は森林の利用の中に組み込まれている。それはつまり、経済林と自然保護林の間に、明確な区別がないということである。これが現代の多機能林業の本質的な部分である。森林の自然保護は、将来的にも現代林業の一部であり続ける。

独自性という意味では、動植物の特別な生息圏をつくりだした、歴史的な森林の利用形態(中林、高林、放牧林)がある。それは自然保護の高いポテンシャルをもっており、種の多様性の幅を広げる結果となった。

森林という土地の形態は、ドイツ政府の “生物多様性国家戦略(2010)“の中で、鳥類に関しての”生物多様性と景観価値“の指標において良い評価を示している。それによれば、現代の森林利用は、生物多様性の状態を促進・改善しているとされている。その指標の森林の値は81%に達し、他の地形に比較して最も高かった。国と州による近自然的な森林利用の促進と、森林所有者の貢献により、この分野において大きな成功を収めた。

また、森林内の種の消滅は、他のビオトープに比べ明らかに少ない。連邦自然保護庁のレッドリストの危険度項目「非常に危険」~「絶滅」に当てはまる種は、全ての維管束植物では3,001種のうち438種(14.6%)であったが、森林植物では1,213種のうち47種(4%)のみであった。2015年までの目標達成のために、この良い傾向は続かなければならない。

しかし、森林の何種類かの動植物が、レッドリストで危険又は絶滅寸前とされているのも事実である。これは特に、手つかずの高齢段階の森林や、枯死木に依存する種が当てはまる。森林の自然保護の、質の指標でもある枯死木の割合は、ここ6年で19%、14.7m3/ha増加した。この急増の原因は、森林の壊滅的被害と州の枯死木プログラムにある。

持続可能な林業の森林認証の部分に関しては、ドイツはヨーロッパで、また世界で最も優れていると言える。ドイツの林業界のほとんどが自主的に、法的な基準を越える森林認証を取得している。ドイツの70%以上の森林面積で、PEFCやFSCの認証を受けているのだ。

そして、州の森林の自然保護措置は、例えば希少な樹種の保護やビオトープの保護、枯死木コンセプトならびに近自然林業の実施などで、価値の高い森林ビオトープを形成させた。

昨今の調査によると、ドイツの森林の3分の2は連邦自然保護法、州森林法、ヨーロッパの生息地指令そして鳥類指令(Natur2000)などに指定されている。その中で最も大きい部分は景観保護地域である。

これらの保護区域は本質的に、景観の保護と種の多様性の維持に貢献している。また、国立公園では保養と持続可能な地域発展も重要な要素である。森林の利用については、景観保護地区ではほとんど制限がない一方、他の保護地域では保護目標が優先され、国立公園やエコパークの核心地域にいたっては、自然保護が第一目的である。保護目的に応じて、多かれ少なかれ森林の経済的利用の制限が生まれるということである。

ここ数年間で、ドイツでは合計100,000haの面積が州や自然保護団体や自然保護基金の自然遺産として登録され、今後さらに25,000ha増加する予定である。自然遺産の地域の3分の2は森林である。推計によると、ドイツの2%の森林面積が完全に森林の人為的利用から免れている(例えば、国立公園やエコパークの核心地域、原生林、自然保護団体や行政の所有地など)。これに関する正確な情報の確保のため、連邦環境省による研究計画が予定されている。

ドイツの林業では、特に近自然林業に則ると、動植物の生息圏としての森林の保護と発展において、自然保護とたくさんの接点がある。森林所有者及びフォレスターは、時として森林の自然保護家として、多くの地域で自然保護施設と共に働いている。

政府は年間1,500万ユーロの予算とともに、生物多様性国家戦略の実施を促進している。連邦プログラムにおいて、この戦略が模範的で指針となるよう支援され、そしてこの措置により、ドイツの生物多様性の減少の停止及び中長期的に好転する効果が期待されている。

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将来的な課題

ドイツ政府は2007年に生物多様性国家戦略で、自然の生息圏の保護と維持のための一連の措置を決定した。また森林に関しても、持続可能な森林利用に関係した生物多様性の保護や維持の目標も文章化された。

ドイツで実践されている、一括した持続可能で多機能な林業の基準は認定され、国際的な部分も顧みられている。自然保護家の代表者がエコシステム能力の維持のために、さらなる手つかずの森林面積の必要性を論じた部分はしかし、社会の持続可能な発展と森林のポテンシャルの総合的な目標の観点から、林業界により厳しく非難された。

自然は、人間の基礎となるような部分において多様な恩恵をもたらす。土壌、食糧、水、燃料、薬品、洪水や地滑りの保護、気候変動や二酸化炭素吸収などのようなエコシステム能力は、自然から無償で提供されているが、それは全てを可視化できるものでもない。

多くの自然の恩恵は、今までの慣習的な経済的尺度では評価されないか、全く当然のことのように受け止められていた。そして、世界的にこの偉大な自然はおろそかにされ、破壊された。

しかしエコシステムの能力と生物多様性は、実際には高い経済的価値を持つ。国連の„The Economics of Ecosystems and Biodiversity“(TEEB)の研究論文では、エコシステム能力の、どのように自然やその能力の維持や再生のためのコストを決定プロセスの際に総合的に考慮すればよいのかといった、評価の手がかりが載っている。将来的には、森林のエコシステム能力の評価は、決定プロセスに組み込まれなければならない。

 

解決の糸口

・生物学的資源の利用と生物多様性の保持との緊張関係は、緩和そして解消されなければならない。

・現在の森林に形成された生物多様性は、国家生物多様性戦略の目標に従って、例えば森林の経済的利用の停止、枯死木の増加、原生林の拡大、Natur2000の面積のネットワーク化といった手段で改善されなければならない。そして国有林などの公的な森林は、その模範となる機能を有する。

・経済利用されていない自然林の調査のために、連邦自然保護省は自然保護庁を通して研究依頼を行い、そしてその知見は、政治的な実行のために具体化されなければならない。政府はプロジェクトの中間報告の提出を受ける。

・林業のさらなる制限は、国内やEUレベルで環境・経済・社会・気候などの面を考慮して、到達可能な持続的な利用を念頭に、慎重に考慮されなければならない。

・生物多様性国家戦略において、手つかずの自然林を確保する措置として、私有林では当事者の自発的な合意を通して実行され、経済的に支援をされなくてはならない。

・森林利用の影響と自然保護との関係性には、さらなる知見が必要である。研究が不足している部分に対して、適した研究計画を進めなくてはならない。研究結果は、持続可能な林業の枠内で自然保護コンセプトのための目標表現に組み込まなくてはならない。

・政府は近自然的な森林利用を評価し、さらに発展させる。目標としては、全国的な森林の環境的措置の、具体的な補助項目を有利な条件で提示することである。

・持続可能で規則に沿った林業にともなった、森林の生態学的な能力は適切に補償されなくてはならない。

・林業のエコシステム能力は、2013年の農業政策の第2の柱の補助対象として考慮されなければならない。例えば連邦生物多様性プログラムなどとの重複は避けなければならない。

・TEEBの研究による査定方法により、自国の森林や生物多様性のエコシステム能力の質は、評価されなければならない。そしてその森林の、エコシステムの評価は決定プロセスに組み込まれなくてはならない。

・高い基準の森林認証面積(PEFC、FSC)の割合を、2020年までにさらに拡大する。そして消費者が、そのような持続可能な森林利用の認証を、購入決定の基準とするように、より一層の啓蒙をしなくてはならない。連邦の公的な調達では、すでに持続可能な森林利用から流通された木が選ばれている。PEFCやFSCやその他の森林認証システムは、その際の適した基準である。州や市町村や経済界は、連邦政府の調達基準を取り入れ、森林認証の消費者の受け入れ広告を強化しなくてはならない。

・公的な林業は、ヨーロッパ自然遺産、特にNatur2000のための面積を確保する役割を、積極的に果たさなくてはならない。

 

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