なぜドイツトウヒは“パンの木”と呼ばれるのか

トウヒ

 

ドイツの森林・林業で主役を担ってきたドイツトウヒ。このトウヒは林業界の“パンの木”とも言われます。一体なぜトウヒは“パンの木”と呼ばれるのでしょうか。

ドイツトウヒの生態

ドイツトウヒ(Picea abies)の分布は、中央ヨーロッパ、東ヨーロッパ、南ヨーロッパ、スカンジナビアからシベリアまで広がっています。ドイツでの本来の分布はハルツ山地、シュヴァルツヴァルト、エルツ山地、フィヒテル山地、バイエリッシェ・ヴァルトなどの中山山地やアルプス山脈になります。樹高は30-40mになり、大きいものでは50mを越えます。

木材は白色~黄白色で、角材、板材、丸太、エネルギー用チップ・ペレット、ツキ板、合板、製紙パルプなどに加工され様々な用途に使用されます。またクリスマスツリー用としても、小さなトウヒが多く栽培されています。

ドイツに全土に広がったトウヒ

本来はドイツの山地の一部にしか分布しないトウヒですが、19世紀初めまでの建築、薪・炭製造、ガラス製造、放牧などのために荒廃した森林、また戦後の復興のために伐採された森林の回復のために、幅広い環境適応性と、早い成長を持つトウヒが大量に植えられました。その結果、ドイツ各地でトウヒの一斉林が誕生し、ドイツの国土を再び森が覆い、そしてトウヒによってドイツの林業を支えられてきました。

樹種別成長量

連邦森林在庫調査3より

上の図は、2012年の連邦森林在庫調査による樹種別の成長量です。外来種であるベイマツの成長量にはかないませんが、広葉樹に比べてトウヒはかなりの成長量(15.3m3/ha・年)となっています。

樹種別面積

連邦森林在庫調査3より

現在のドイツのトウヒ林の面積は、どのくらいあるでしょうか?2012年の連邦森林在庫調査によると、トウヒ林の面積は森林面積全体に対して25.4%にあたり、ドイツの森林の中で最も多い樹種となっています。

樹種別蓄積量

連邦森林在庫調査3より

また、蓄積量でみるとその割合は32.9%で、ドイツの木材供給にとって大きな意味を持っているのが分かります。

森林面積の25%、蓄積量33%を占めているトウヒですが、木材売上の割合で見てみるとさらに重要性を増し、その割合はなんと52%にもなります。林業を純粋な経済活動と見た場合に、トウヒの重要度が分かる数字です。

これらの経済的な利点をもって、トウヒは“パンの木(Brotbaum)”と呼ばれています。ドイツ語のBrotbaumの直訳は“パンの木”ですが、Brotには“パン”という意味の他に“生計”や“生活の糧”という意味があります。様々な環境に適応し、育成が簡単で、形質も成長も良く、獣害にも強く、経済的な支えとなるトウヒは、まさにドイツ林業界にとって生きる生活の糧なのです。

トウヒ林

近年のトウヒ事情

そんなドイツ林業の主役を担ってきたトウヒですが、近年はその様相が変わってきました。浅根性のトウヒ一斉林は90年代以降の暴風雨によって大きな被害を受け、また乾燥に対する耐性やそれに伴う虫害の被害、そして気球温暖化に対する懸念から、将来的にトウヒの一斉林は大きなリスクがあることが認知されてきました。また、生物多様性や生態系に配慮した近自然林業の考え方から、本来の自然ではないトウヒ林から、ブナをはじめとした広葉樹を増加させる流れが広がりました。

樹種別面積量変化

連邦森林在庫調査3より

樹種別蓄積量変化

連邦森林在庫調査3より

連邦森林在庫調査による2002年と2012年と比較では、トウヒの面積は10年間で240,000ha(2.4%)減り、蓄積量は3.8%減少しました。

このように現在は、一時期の過剰な単一トウヒ林施業から、本来のドイツの主要樹種であるブナを中心とした広葉樹が促進されています。

しかしながら、林業経営的な理由から将来的にもトウヒの面積は自然な分布範囲までは減少せず、ある程度の面積は確保されます。そこが林業の経済的な部分と環境的な部分の折り合いのつく均衡点とも言えるでしょう。

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