ザールラント州はドイツの中西部に位置する小さな州ですが、全国に先駆けて近自然林業を国有林に取り入れる政策がとられました。
ザールラント州の近自然林業
ザールラント州の国有林では、他のどの州よりも早く1988年から近自然林業を始め、既に30年にわたる歴史を持っています。その間、従来の針葉樹の一斉林施業から、広葉樹との混交林への転換が図られてきました。現在、近自然林業の指針は“森林規範”としていくつかの項目がまとめられています。
・皆伐の禁止
次世代の木が育つ前に広い面積で全ての樹木を伐採すると、森林の機能や生態系などに様々なネガティブな影響を及ぼします。それゆえ国有林では皆伐を禁止しています。
・在来種による天然更新の促進
次世代の近自然的な森のために、天然更新を重視します。その際、かつてはあまり価値がないとされていた、カバノキ、ヤマナラシ、ヤナギ、セイヨウミザクラなども保持します。
・肥料や農薬及び遺伝子組み換え種の禁止
過去には林業にとって好ましくない虫や植物のために除草剤や殺虫剤が使用されましたが、それを禁止します。例外は酸性化した土壌のための石灰散布です。
・適切な密度を維持する野生動物の管理
自然な森林群落の天然更新や、下層植物の多様性が維持されるレベルに、シカやイノシシの個体数を抑制します。
・土壌保護のための森林内走行の抑制
健全な生態系の基礎である土壌を保護するために、森林内の重機での走行は決められた作業道のみで行います。
・生物多様性の促進
種の多様性を保つために、森林の一部を保護区にしたり、大木や枯死木を生息地として保護します。
・次世代への雇用の維持
持続可能な林業は、十分に教育を受けた専門的な資格を持った人材によってのみ維持されます。
・林道の保持
林道は木材の利用のためだけでなく、市民が保養のために森に入る目的で使われます。
・規範を保障するための森林認証
ザールラント州の国有林は、現在FSCとPEFCの森林認証を受けています。
ザールラント州の森林自然保護
森林規範にもあるように、生物多様性の保護は今日ではとても重要な項目になっています。ザールラント州の森林には、多くの貴重なブナ林が広がっており、この森林の生物多様性の保護に関して、ザールラント州の国有林では3本の柱を軸に、経済林においても老齢段階の構成要素を増やす試みをしています。
1. 国有林の10%の保護
このプロジェクトでは、国有林の10%を経済的利用から外し保護区とします。その保護区の面積は3,800haになります。この保護区内では木々が成長し、老齢段階から枯死木になり分解されるまで自然のまま放置され、様々な成長段階に住む貴重な動植物が保護されます。また、これらの森林は近自然林業の参照地とされ、林業利用によって森林がどの程度自然林から離れているのかを確認することができる重要な比較対象となります。
2. 老木・枯死木生物群集プロジェクト
このプロジェクトでは、160年生以上の広葉樹の林分を対象とし、面積は合計で5,600haになります。指定された林分の経済的利用は限定され、経済的価値の高い樹木のみ伐採が許可されます。
3. ブナの大木プロジェクト
このプロジェクトでは上記の森林以外の場所で、ハビタット木として特徴を示す広葉樹を1haあたり100m3または10本程度、経済的利用から外します。これらの木は枯れて分解するまで手付かずのまま放置されます。
これらのプログラムにより、森林の老齢段階に住む貴重な動植物について、短期的には現存する生物群落を維持し、中・長期的にはそれが森林全体に定着するよう目指しています。
コメントを残す