森林葬のパンフレットを読み興味を持ち、その見学会に参加した日は、雪の降る寒い日でした。自分の他に参加者は1組の老夫婦のみ。それはとても静かなツアーでした。
新しい埋葬の形
キリスト教の国であるドイツでは、古くから土葬による埋葬が行われてきました。しかし、今日では火葬の割合も増えており、伝統に縛られない選択もできるようになってきました。
1993年にスイスのザウター氏が、友人の遺灰を木の根元に埋葬したのをきっかけに広まった森林葬は、2001年よりドイツでも行われるようになりました。今回は森林葬の先駆けであるフリードヴァルト社の制度をご紹介します。
日本での樹木葬は、墓標の代わりに樹木が植えられることが多いですが、森林葬(一般的には樹木葬と呼ばれますが、当ブログではあえて森林葬とします。)は文字通り、現在ある森林の木々の根元に、火葬された遺灰を埋葬します。
遺灰は容器に入れて埋葬されますが、容器は生分解性で、やがて自然に還るものを使用しています。遺灰が埋葬された上には墓石や十字架などの装飾はされず、誰が眠っているかは樹木にかけられた1枚の小さなプレートだけに記されています。
契約で樹木は99年間管理され、途中で枯れたり折れたりしてしまった場合は新しい木が植えられます。森林の管理はプロである森林官が行い、遺族がお墓の管理をする必要はありません。
森林葬のある場所は、樹木に小さなプレートがかかっていたり、セレモニー用の場所があるだけで、一見普通の森と何ら変わりはありません。森林を散歩する人々が通り、様々な動物が生息し、そして木々が成長してきます。
埋葬場所と費用
埋葬にかかる費用は一様ではありません。
まず樹木を何人で利用するかによって、値段が変わってきます。1本の樹木に個人またはそのパートナーと一緒に埋葬される場合、1本の樹木に家族や友人で埋葬される場合(木の周囲10ヶ所まで)、1本の樹木に他人と一緒に共同で埋葬される場合(木の周囲10ヶ所まで)など異なる選択肢があり、当然1本の樹木に個人で埋葬される方が高くなります。
また埋葬に利用される樹木の樹種、大きさ、位置などによっても値段が変わってきます。やはり大きい樹木ほど高価になります。
批判
森の木の根元に遺灰を埋葬することに批判もあるようです。遺灰を入れる容器は生分解性なのでやがて自然に分解され、遺灰が土に接触します。その人間の遺灰の中に含まれているクロム、ニッケル、亜鉛などの重金属が樹木や水源にとって有害であるという懸念です。
これに対し、フリードヴァルト社の委託によりフライブルク大学が行った調査の結果、遺灰による重金属やpHの影響は、現在までは問題ないとされました。
見学を終えて
森林葬の見学会が終わり、案内人と老夫婦が去ると自分はひとり森に残されました。雪が降りしきる森の中は静寂に包まれ、ここは死者が眠っている場所だという意識を強く感じました。
森を下り、村の中をバス停まで歩いていると、人や車に全く出会わず、ここも静寂に包まれていることに気がつきました。みんな家の中でひっそりと冬をやり過ごしているのだ。生きている者も、死んでいる者も、みんな同じ。そんな思いが浮かびました。春になれば、生者は家を出て花咲く通りに出て行くだろう。死者は木々の芽吹く森に出て行くだろう。生きている者も、死んでいる者も、みんな同じ。
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