近年、日本ではシカやイノシシが増加し、農林業の被害が問題となっています。一方、ドイツにおいてもその数は増加傾向にあります。シカやイノシシの増加の要因は色々考えられますが、日本とドイツの状況と比較してどのような違いがあるか考えてみました。
なぜ日本でシカやイノシシが増えているのか
シカやイノシシが増加により、各地で様々な被害が出ています。森林内においては樹皮剥ぎ、希少植物の減少、生物多様性の低下、土壌流出、ヒルやダニの増加、また人間の生活と重なる里山地域では農作物の被害が出ており、現在シカやイノシシによる農作物被害額は100億円を越えています。
なぜ近年、日本でシカやイノシシが増加してきたのでしょうか?
まず、シカやイノシシの繁殖力や生命力の強さがあげられます。シカは早ければ1才で妊娠可能になり、その後毎年1頭の子どもを産みます。イノシシも2才から妊娠し、毎年4-5頭の子どもを産みます。
そのような生物的特性のほかに、環境省のパンフレットではいくつかの増加理由があげられています。
①積雪量の減少
②造林や草地造成などによる餌となる植生の増加
③中山間地域の過疎化などにより生息適地である耕作放棄地の拡大
④狩猟者の減少
⑤生息数の回復に対応した捕獲規制の緩和の遅れ (2007 年までメスジカは禁猟)
明治時代の乱獲により、著しく数が減少した状態から、上記のような要因で死亡率が低下し、再び近年の増加に繋がっていると考えられています。
狩猟免許所持者数:減少の日本、増加のドイツ
シカやイノシシの増加理由にあげられている、ハンター(狩猟者)の減少について見ていきましょう。上の図によると、1970年代には50万人以上いたハンターは、その後急速に数を減らし、現在では1970年代の半分以下の20万人前後で推移しています。また、狩猟免許の中でもわな猟免許の割合が高くなってきています。
また、ハンターの年齢構成を見てみますと、20代30代の若手ハンターが減り、高齢化が進んでいるのが分かります。2015年度では60歳以上のハンターの割合が60%を越えています。
一方ドイツの状況はどうでしょうか。日本とドイツの狩猟免許所持者数の推移を比較してみました。
ドイツでは、東西統一の関係で1989年度にハンターの数が急増していますが、基本的には現在まで常に安定した数のハンターが存在し、およそ30万人台の数で推移しています。また、傾向としてはなだらかな増加傾向で、1989年度と2015年度を比較するとハンターの数は約23%増加しています。
日本では過去にドイツの倍以上のハンターがいましたが、1990年ごろにその数は逆転しています。
野生動物捕獲数:急増の日本、増加のドイツ
日本とドイツのシカとイノシシの捕獲数をひとつの表にしてみました※。
ドイツのグラフから見てみますと、ノロジカの捕獲数が突出して多く、1992年度には100万頭を越え、現在は年間120万頭近くが捕獲されています。ノロジカの捕獲数を1980年度と2015年度を比較すると、その数は約1.6倍になりました。また、イノシシの捕獲数は現在約60万頭で、増減を繰り返しながら増加傾向は続き、1980年と2015年度の数字を比較すると、昔に比べ約4.7倍捕獲されていることになります。
日本のニホンジカとイノシシの増加はさらに指数関数的です。2015年度のイノシシの捕獲数は、現在ではドイツの捕獲数に近い55万頭で、1980年度と比較すると6.8倍になりました。また、2015年度のニホンジカの捕獲数は62万頭で、1980年度の実に31倍になります。
日本では1970年代以降ハンターの数が減り続け、反対にシカとイノシシの捕獲数が急増しているということは、ハンター1人当たりの捕獲数がかなり伸びているということになります。ドイツと比較してみても、ハンター1人当たりのイノシシの捕獲数はドイツで1.6匹、日本は2.9匹となり、倍に近い数字になりました。
ただし、日本においてもドイツにおいても、狩猟免許所持者の中でどれだけのハンターが積極的に猟を行っているかは不明なので、一概にハンターの数だけで色々と比較をするのは難しいのかもしれません。
※ノロジカはニホンジカより小型のシカで、ドイツでの主要な狩猟鳥獣です。その他にも2015年度にはアカジカ約8万頭、ダムジカ約6万5千頭、ムフロン約8千頭、シャモア約5千頭、ニホンジカ約2千頭などが捕獲されています。
日本とドイツの増加要因は同じか
ドイツでは日本ほど急激ではないものの、ノロジカやイノシシの捕獲数が増加していることが分かりました。その原因について、最初にあげた日本での増加要因がドイツでも当てはまるか検討してみました。
①積雪量の減少
地球温暖化は地球規模の現象であり、当然ドイツもその影響を受けています。積雪量の減少や穏やかな冬の気温により、野生動物の冬の死亡率が低くなると言われています。
②造林や草地造成などによる餌となる植生の増加
大規模皆伐がないドイツの森林で、新たに草地的環境が増加することはそれほどなさそうですが、近年の森林の広葉樹化、複層林化、天然更新の拡大などによる餌の増加はあるかもしれません。また、トウモロコシ畑の増加も指摘されています。
③中山間地域の過疎化などにより生息適地である耕作放棄地の拡大
ドイツでは猟区の被害のコントロールは、その猟区の狩猟権を持ったハンターが補償を含め責任を持って行っているので、大きく荒れるような場所はあまりなさそうです。
④狩猟者の減少
1989年度と2015年度を比較すると約23%増加しています。
⑤生息数の回復に対応した捕獲規制の緩和の遅れ
これについては、過去の法規制の変更を調べきれなかったので不明です。
ドイツにおいて、日本で考えられている6つの要因の中で当てはまりそうなものは温暖化の影響と餌の植生の増加でしょうか。ドイツ特有の話ではその他に、ハンターによる冬期の餌やりも関係しているかもしれません。
日本とドイツのシカ・イノシシの問題を比較した結果、日本ではハンターの数が減り、シカ・イノシシの数が激増する一方、ドイツではハンターの数が増え、なおかつシカ・イノシシの数も増加しているという状況が分かりました。日本とドイツでは自然環境、社会状況や法律など全く違う条件ですが、野生動物の問題をグローバルに考えさらに突き詰めて調査してみると、何か面白い発見があるかもしれません。
コメントを残す