近自然林業の実施において、枯死木、老木は生物多様性に貢献するとても重要な要素です。従来の林業では排除されてきたこれらの要素に、一体どのような価値があるのでしょうか。
天然林と人工林の違い
図は天然林と人工林における、樹木の発達段階のモデルです。通常、林業においては成熟段階で木の伐採を行います。その木が持つ本来の寿命まで、木がそのまま残存することはあまりありません。
成熟段階において、枯死木は例えば光の競争などに敗れた木において発生しますが、その量は少量で、径は太くありません。一般的には、森林の老齢段階で枯死木が多く発生します。枯死木の発生の原因は、木の寿命、病虫害、強風、雷、雪など様々です。この老齢段階の有無が天然林と人工林の大きな違いです。よって老齢段階の構成要素である、多くの動植物にとって重要な枯死木を、人工林に組み込む必要があります。
なぜ枯死木が必要なのか
1.生物の生息地としての枯死木
枯死木はある種の生物にとっての生息地として、とても重要な役割を果たしています。枯死木にも条件の違いがあり、立ち枯れ木や倒木、樹種の違い、太さの違い、日なたか日陰か、湿っているか渇いているか、枯れたばかりか腐りかけかなどによって、そこに住む生物も変わってきます。
上の図はLaufeldという町の学習の小路にある看板です。一見して、枯死木にどのような生物が生息しているかわかります。ドイツでは森林に住む生物の3分の1が、直接的または間接的に枯死木に依存しているとも言われています。
枯死木を生息地とする生物には、以下のようなものがいます。
・哺乳類
コウモリ、ネズミ、テン、ヤマネ、リスなど。
・鳥類
キツツキ、フクロウ、シジュウカラ、ヒタキ、コマドリ、キバシリ、ツグミなど。
・爬虫類
・両生類
・昆虫
甲虫類、ハチ類など。
・軟体動物
・菌類
・コケ植物
・地衣類
2.天然更新の場としての枯死木
地表では、他の植生の状況や病原菌により天然更新が期待できない場合でも、倒木の上ではある程度の湿度が保たれ、ライバルもいないことから倒木更新が期待できます。
3.土壌保護としての枯死木
倒木が雨の勢いを緩衝し、土壌の流出を防ぎます。
3.炭素貯蔵の場としての枯死木
長期間にわたり、大気中の二酸化炭素を固定します。
林業にどの位の枯死木が必要か
自然の森ではどの位の枯死木が存在するのかを確認するためには、原生林を調べる必要があります。そこで東ヨーロッパに残る原生林を調査したところ、枯死木の量はおよそ50-200 m3/haと判明しました。そして場所によっては、300 m3/haを越えたところもありました。
しかし人工林において、それほどの枯死木を存在させることは不可能です。では一体人工林において、どの程度枯死木を残せばいいのでしょうか?研究によって、枯死木の量にはある一定以上の量が存在しないと、その生物の数が増えない閾値があることが分かりました。それぞれの生物により閾値は異なり、例えばオオアカゲラ50 m3/ha、ミユビゲラ20m3/ha、甲虫30-60 m3/ha、軟体動物50 m3/ha程度必要であるという調査結果が出ました。
枯死木の増加を進めているドイツですが、2012年の連邦森林在庫調査によると、全国の枯死木の平均量は約20m3/haですので、もう少し枯死木の蓄積を増やす必要がありそうです。また枯死木は年々分解されていくので、供給は続けていかなければなりません。
生物多様性の重要性についてはここでは割愛しますが、持続可能な林業、近自然林業において、このような森林内保全はその施業の重要な基礎になります。
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