30年に渡って近自然林業を行っているというバイエルン州の国有林ですが、州の林業公法人企業が新たに「バイエルン州林業公法人企業の造林原則」において、近自然林業の基本施業方針をまとめました。
近自然林業の特徴
以前の記事でも書いたように、近自然林業がどのようなものであるか、明確な定義があるわけではありません。しかし一般的な特徴は、次のような林業における環境面での配慮です。
・皆伐の禁止
・適地適木な樹種選択
・鳥獣の適切な個体管理
・病中害に対する化学薬品の使用の禁止
・混交林・複層林の促進
・天然更新の促進・活用
・老木・故損木、ビオトープ木の保護
・土壌の保護
バイエルン州では、森林内の自然保護に関して2009年に「自然保護コンセプト」を策定しました。それは主に、近自然林業における上記の老木・故損木、ビオトープ木の保護などについて規定しています。一方、2008年に策定された「バイエルン州林業公法人企業の造林原則」には、他にも造林における近自然林業の要素について書かれています。また皆伐に関しては、州の森林法にも規定があります。
バイエルン州の造林原則
1.自然の森林群落における樹種は、造林において適切に導入する
-自然の森林群落における樹種構成に相当する森林(山岳混交林、ブナ林、渓谷林、河畔林)は、その基本的構成を保持する。
-希少な在来の樹種を特に増加させる。
-非常に人工的な林分(本来の分布地ではないような針葉樹一斉林など)は、更新段階において、自然の森林群落から持ちこまれた樹種によって順次混交林へと転換する。現存する混交林は、育成によって促進する。
-森林の価値や抵抗力の高さは、その場所に適した混交林の割合によって向上する。場所に適した外来の樹種は、認められた適切な範囲内で混交する。
2.木材蓄積と目標直径は、樹種や場所、品質によって区別する
-高価値の大径木の育成ポテンシャルは、特にブナ、ナラ、高級広葉樹、カラマツ、マツが考えられる。特別なリスク(風害、雪害、木材の価値の低下)は、蓄積量、蓄積構造において考慮に入れる。
-その土地の成長ポテンシャルを利用する。価値の低下やその他の危険リスクを考慮の下、個々の木の価値の増加を最大限にする。木の収穫に際しての、林分への被害は防ぐ。
-環境の面から、林分の機能や安定性や価値の向上が確保される限り、成熟段階の森林が出来るだけ高い割合になるように努める。
3.更新は長期的に、小面積の方法を優先して行う
-場所に則した樹種の遺伝的に適合している古い林分は、天然更新を行う。天然更新が不可能な場所や、目標に沿わない天然更新が起こった場合は、その場所にあった樹種が将来的に適切な割合で次の世代に保全されるよう補う。
-目標とする樹種構成に到達するために、適切な時期の前更新を始める。長期間の更新期間は、次世代の森林へのおだやかな移行を保証する。
-群状的や択伐的な造成方法は、相応した条件、特に保護林や保養林において用いる。
-皆伐は行わない。例外は、小規模の更新による方法で目標の樹種構成に到達しなかった場合である。
4.森林における、自然の合理的な力を利用する
-経営的な集中は、その土地の地力によって区別する。
-天然更新のポテンシャルの利用と、適した時期の混交樹種の投入によって、造林の出費を最小限にする。
-目標の樹種構成、品質の向上、競合植生は樹冠の調整によってコントロールする。手入れする措置を最小限にするために、自然の成長速度の違いを利用する。
5.森林の抵抗力を保持、強化する
-予測された気候変動に対応して、育成時や更新時に高気温と乾燥に耐性のある樹種の利用を考慮する。本来の生息地ではない針葉樹林は、広葉樹が多い混交林へ転換する。そして徐々に気候変動に対応する。
-植物性や動物性の害および非生物的な危険(暴風雨、雪など)に対する抵抗力は、由来の正確な、その場所に適した樹種の選択や、混交林の造成、適切な更新または育成などによる予防措置を優先する。
-必要な森林保全措置(害虫対策など)は、森林の被害を防ぐために速やかに確実に実行する。
-総合的病虫害管理を基にして、科学的な農薬の使用は絶対的に必要な最小限の量にとどめる。殺菌剤や除草剤は、基本的に使用しない。
6.シカやイノシシの密度を、“動物よりも森林”という原則を考慮に入れ、天然更新が可能な程度にする
-その場所に適した、混交した古い林分の天然更新及び主要樹種の植林や播種は、多様な種が混在する健康な野生動物の状態を維持するような適切な狩猟によって、基本的に特別な保護措置なしで可能なようにする。
-特に獣害の危険がある場所での保護措置は例外である。
-山岳地の保護林は、その森林が持つ能力の保持や再生のために、継続的な狩猟が特別な意味を持つ。それは特に食害からの再生地において、可能な限り被害がない状態を維持しなければならない。
-生息地に適したシカやイノシシの密度調整を、狩猟によって行い、多様でその場所に適した植生を促進する。
7.森林の遺伝的資源を、持続可能的に保持、改善する
-その場所に適した樹種からなる遺伝的に適した古い林分は、長期的な小面積の方法による天然更新が優先され、その遺伝的な多様性を次世代の森林に引き継ぐ。
-人工的な更新は、由来に注意を払い、市場で手に入る限り、その場所に適した由来の追跡が可能な種や苗のみを使用する。“追跡可能”とは、採種から育苗、そして配送までその遺伝的な情報を追えることである。
-希少な木や低木、そして希少な由来の遺伝的ポテンシャルは、例えば目標を定めた植林などによって保護する。
8.森林エコシステムの本質的な基盤である土壌を、損傷から保護する
-土壌の能力や生産性は、減少しないよう保持する。
-森林は、高密度で模式的に林道が通っているが、新設する作業道の間隔は基本的に30mを維持する。
-走行は既設の作業道に限られる。
-林業による土壌の損傷は、適した技術や生分解の油、作動液及び土壌や気象条件を考慮することによって、可能な限り防ぐ。
-収穫増加のための堆肥は禁止する。荒廃した場所での土壌の機能回復には、生物的な改良措置を優先する。石灰による措置は、必要性があり調査によって保障された場合のみ行う。貧栄養な土壌では、基本的に枝葉を含めた全幹集材を行わない。
-土壌がさらされることによって起こる、腐植土の損失を防ぐ。播種は、面状または筋状の耕作によって行う。
9.保護機能と保養機能は保持、改善する
-土壌保護能力を維持するために、危険な個所では深根性の樹種で持続的に土壌を覆う。
-山岳林の保護能力を確保する。機能が阻害された保護林は、バイエルン州林業公法人企業の指示によって、必要な改善措置を行う。
-洪水の防止は、森林の面的な排水力の改善によって促進する。河畔林は保持し、可能であれば拡張する。
-特に飲料水保護の意味がある地域は、森林の浄化機能を広葉樹の安定的な林分によって強化する。
-都市に近い森林や保養地では、森林の保養機能を特に促進する。
-全ての経済的措置において、景観に悪影響を与えることを防止する。景観的に魅力的な個々の、または複数の木は保持する。
10.自然保護コンセプトを考慮し、森林エコシステムの生物多様性を向上させる
-希少な種やその生息地の保護は、近自然林業の本質部分である。
-森林に住む動植物にとって貴重な生息地は、その規模と構造を保持または拡大する。
-自然保護区は、バイエルンの自然な森林群落の発達を目標として促進する。
-環境的に特別な場所にある価値の高い森林、例えば湿地林、荒地林などは、自然の状態を維持する。損傷が起きた場合には、回復への発達を促す。
-森林の構造と発達段階の多様性(樹種分布、樹齢、層構造)は、適した造林的な措置によって維持、促進する。
-古木や古い森林の遺物は、生物多様性を確保するための必要不可欠な飛び石である。林業においてこの要素を特別に配慮する。そして、それらを適切な規模で保持する。
-立ち枯れ木や倒木、営巣木や洞のある木は沢山の動物、きのこ、植物にとっての生息地であるので、交通安全や労働安全が許す限り、広い範囲で様々な構造形態で残す。
-経営的な措置の実行は、特に林縁において動物の繁殖期を考慮する。
-森林内の開けた場所は、環境的価値に従って維持、育成、発展させる。
-景観に合った、生物が多様な安定した林縁を、花が咲く木や低木などによって形成、育成する。
-林業や狩猟において、希少で保護された動物の、特別な生育環境を考慮する。
-国有林における保護区の高い割合は、一方ではそれらの土地の特別な状態を意味し、他方ではバイエルン州林業公法人企業の自然保護に対する特別な責任意識を表す。適切な保護目標は、森林計画に内包している。それだけでなく、保護区における目標に沿った改善措置が行われている。
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