古木・枯死木コンセプトの影響

故損木

 

ドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州では、2010年に古木・枯死木コンセプトが施行されました。国有林でこの施策が開始されてから数年経過しましたが、この間、どのような変化はあったのでしょうか。

古木・枯死木コンセプトの実施状況

ハビタット木グループ数

表は、バーデン=ヴュルテンベルク州の古木・枯死木コンセプトの、2015年までの実施状況です。バーデン=ヴュルテンベルク州では2010年のコンセプトの施行以来、段階的にハビタット木グループや保護区の設定を行ってきました。

2015年末までの実施状況としては、184,362本の木からなる、16,891のハビタット木グループを設定しました。ひとつのハビタット木グループの本数は平均11本からなり、合計の面積は922haになります。保護区は、1,563ヶ所設定され、面積の合計が4,856haになるので、ひとつの保護区の平均面積は約3.1haになります。

2020年までの目標値も設定されていて、ハビタット木グループが2,300ha、保護区が10,000haで合計すると、バーデン=ヴュルテンベルク州の国有林のおよそ3.7%にあたります。さらにユネスコエコパークや国立公園の核心地域などを合わせて、国有林内に合計で、10%近くの禁伐区を設定することを目標としています。

枯死木の量は増えたか

2002年、2012年に行われた連邦森林在庫調査では、枯死木の量も調査しているので、バーデン=ヴュルテンベルク州の古木・枯死木コンセプトの影響が現れているか見ていきます。

枯れ木の量

2012年の調査では、バーデン=ヴュルテンベルク州の森林内の枯死木の量は28.8m3/haで、ドイツでトップの数字になりました。しかしこの数字は政策のためというより、1999年の暴風雨“Lothar”による倒木のためとされています。暴風雨の被害があった調査場所の数値が、他の場所の数値を大きく引き上げているのです。

また、2002年の連邦森林在庫調査で記録された枯死木の量は19.0m3/haでした。2012年の数字と比較すると、枯死木の量は10年で50%以上増加したことになります。しかし、この数字にもカラクリがあります。実は2012年の調査では、枯死木の調査基準が変わり、より小さい直径の枯死木もカウントするようになったため、枯死木の量が大幅に増えたのです。

それでは、2002年と2012年の調査基準を統一した数字で比較するとどうなるでしょうか?それによると、2012年の枯死木の量は19.5 m3/haで、2002年の19.0 m3/haと比較して、微増に留まりました。しかし、全体で19.5 m3/haの枯死木量を、暴風雨跡地とその他の場所で比べると、暴風雨跡地の枯死木量が、分解や搬出などの原因で50 m3/haから40 m3/haに下がったのに対し、その他の箇所では14 m3/ha から16 m3/haに増加しています。

枯れ木

古木・枯死木コンセプトで守られるのは、生物の生息に適した木であり、それは枯死木もあり、そして将来の枯死木もあります。2010年に始まったこのコンセプトは、2020年の目標まで、年々保護面積を拡大していきます。まだその施策の影響は顕著に現れていませんが、次回の連邦森林在庫調査あたりには、もっと数字に現れてくるのではないでしょうか。

また、ハビタット木・枯死木の量を増やすことは手段であって、このコンセプトの目的は、希少種を保護し、生物多様性を増加させることです。コンセプトには守るべき希少種とその特徴、生息環境が付属して載っています。これらの種が今後どのように発展していくのか、研究にはまだ長い時間がかかります。

時間は早めることはできません。いつか将来日本で同様の政策が行われた場合にも、評価には時間がかかります。しかし、ドイツや世界で先行して行われているこれらのコンセプトが、生物多様性や林業の経済性、安全性へ与える影響に関する知見は、きっと日本でも大いに役立つことでしょう。

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